サプライズな介護職員基礎研修
福祉や介護の権利性を実現するには、積極的に福祉の権利規定を整備しなければならない(社会保険方式は固有の排除原理のために、普遍性・権利性を実現できないと主張するのは、里見賢治「厚生省・介護保険制度案大綱の陥穿」社会福祉研究66号(1966年)10頁)。
結論的にいえば、法文には権利規定がきわめて乏しいといわざるを得ない(佐藤進は法案の保険給付の権利性の弱さを指摘し、権利保障の実体的規定に加え、請求権に対応する保険者の義務の具体化の重要性を指摘する。
佐藤「介護保険(法)制度創設と社会保障、労使関係(法)制度改革の課題」季刊労働法181号22頁)。
保険給付の抽象的な基準は、要介護者が「有する能力に応じた自立した日常生活を営むことができるのに必要な保健医療・福祉サービスの保障」(一条)および、「要介護・支援状態に必要な給付」(2条)である。
「自立援助に必要なサービス」は、一般に自立に役立つ性質のサービスの部分的保障でも足りるのか、サービスにより自立的生活が現実に可能な程度の保障を意味するのか、必ずしも明確ではない。
法は給付の具体的な基準を、厚生大臣の定めに委ねる。
しかし給付基準の中核的要素は法律で規定しなければ、保険給付の権利性は脆弱なものとなる(K『社会福祉の権利構造』14人頁は現行社会福祉の措置基準について、ミニマムスタンダードは法律形式によるべきであるとするが、この指摘は介護保険法の場合にも妥当する。
同旨、河野「在宅ケアにおける質と基準」ジユリスト増刊『高齢社会と在宅ケア』(有斐閣、1993年)99貰、石橋敏郎「社会的ケアの展開と介護給付サービスの課題」季刊労働法一人一号64頁)。
給付水準は要介護被保険者が介護給付額の枠内で合理的な介護サービスの選択をすれば、要介護状態が解消・軽減され、自立的日常生活が可能になる水準でなければならない。
支給限度額がこの条件を充足しているか検証が必要である。
厚生大臣の区分支給限度基準額の設定は、事前に審議会の意見聴取を義務づけられるが、有効適切な限度基準額が設定されるかどうかについては、審議会への依存度が高い。
しかし従来型の審議会では、十分な効果が期待できるか危倶される。
もっとも、支給限度額が予算の割当額から逆算して抽象的に決定しないで、具体的かつ適切な介護モデルを想定し、必要な介護サービス給付額を算定する方式をとれば、給付水準が改善される可能性がある。
現行の措置制度では、在宅サービスのナショナル・ミニマムの制度化を今日まで放置してきたが、合理的な介護モデルの設定とそれに基づく給付額の算定により、在宅サービスの保障基準の引き上げが期待できないわけではない。
そのためには、給付水準は居宅サービスの回数、時間、時間帯を示すにとどまらず、当該サービスで達成可能な要介護者の自立的生活の内容を具体的に示す必要がある。
たとえば寝返り、移動、排地、摂食、着脱、入浴等が実際にどの程度実現し、自立的生活ができるようになるかを具体的に基準化するのが有効であろう。
施設サービスは、介護保険によって措置から契約へ利用方式を変更するが、サービスの基準は従来の制度を踏襲する。
しかし、従来の施設サービス基準が「要介護に必要なサービス」となっていたか、とりわけ「ノーマルな市民としての日常生活」(自立的生活)を保障する水準であったか検証が必要である。
たとえば、特別養護老人ホーム等のプライバシーの保護に欠ける居室の雑居制、痴呆症のある入所者をベッドに拘束するなど、施設によつてはノーマルな臼常生活とはいえない実態がある(介護保険の給付水準で、現行措置制度の問題点の解決が目指されなければならない。
同旨K「福祉と人権||いま」ジユリスト臨時増刊『福祉を創る』(有斐閣、1995年)14頁。
しかし法の規定内容では積極的な改善の兆しは見えない)。
ケアフランの作成を制度化すれば、入所施設も施設のサービス内容もケアプランで要介護者が選択することになる。
従来の措置方式では、施設入所という包括的サービスサービス内容について入所者の選択権の行使を制度的に保障しなかった。
介護保険は施設を一方的に提供し、サービスも包括的サービスから、サービス内容を要介護者側が、個別的に選択して契約する道を開くものといえる。
しかし、法では施設サービスのケアプラン作成は、包括的に施設サービス給付に含まれ、独立の保険給付としていないので、ケアプランが施設サービスでどのように生かされるか明確ではない。
したがって、施設サービスの基準が、措置制度より改善される方向は見えないままである。
ただし施設サービスのケアプラン作成が定着すれば、入所生活のライフスタイルを、入所者の選択権行使により実現する可能性が開けるといえようか。
在宅・施設サービスのいずれの場合も、適切な給付水準が確立せず、要介護者の選択権の行使の実質的保障制度(アドボカシーなど)がなければ、契約方式による介護サービス制度は、低水準のサービスが本人の自由な選択と擬制され、合理化される危険性が大きいであろう。
高額介護サービス費の給付要件は、白紙委任的に政令に委ねられている。
しかし、この要件は被保険者・国民の一部負担の限度を画するので、本来は法律事項とすべきであり政令に全面的に委ねることに疑問が残る。
高額介護サービス費の支給要件の設定は、被保険者の一部負担が家計への過重負担となるのを避ける趣旨が生かされなければならない。
低所得世帯への配慮はもちろんであるが、社会保険料の総額、介護サービス及び医療保険の一部負担の総額が、考慮される必要がある。
医療と福祉の連携は、給付や保険料の徴収面のみにとどめるべきではなく、被保険者の負担の面でも総合的評価が求められる。
家族介護手当は、当分の間見送られることになった。
家族介護に対する現金給付は、老健審最終報告が統一見解に至らず両論併記をした経緯があり、介護保険をめぐる主要な論争点の一つであった。
最終報告の消極論は、家族介護の固定化とくに女性が介護に拘束されること、家族の心身両面の負担が過重になること、現金支給がサービスの拡大を妨げること、現金支給は費用を増大させるので財政面で慎重な検討が必要なことなどを論拠とした。
他方、積極論は被保険者の選択の重視、介護サービス利用世帯と家族介護世帯との公平性、制度として制限的すぎること、家族介護の希望者の多さ、介護による家計支出の増大、保険制度の下で保険料負担の見返りとしての現金給付の必要性などを主張した。
これらの各論拠は多様で、結論は同一でも異なる政策的価値観が混在する。
私見は一定の条件の下に、家族介護手当を認めるのが合理的と考える。
今日の高齢社会と核家族化の進展に伴い、「介護の社会化」が社会的要請となってきた。
したがって、家族の介護力の有無と関係づけずに要介護性を判断すること、すなわち要介護状態自体を要保障事故として制度的に認めることが必要である。
女性の介護負担問題も、性別を問わず家族すべてを介護負担から解放する方向で解決されなければならない。
すなわち、家族介護手当が消極説の危倶する事態の発生を防止する措置をとったうえで、家族手当を制度化すべきである。
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